ショパンの指先
敷地の大きな一戸建てが並ぶ閑静な高級住宅地。俺はバラのガーデニングが綺麗な一軒家の前で立ち止まり、いつものようにチャイムを鳴らした。
「はい」
透き通る綺麗な声がスピーカーから聴こえてきた。
インターホンに向かって「俺です」と言葉を投げると、「入って」と甘えるような声が返ってきた。
手入れの行き届いた庭を横切ると、玄関のドアが開いた。サファイアブルーの瞳を持つシャム猫を抱いて出てきたその人は、俺を見ると少女のように頬を赤らめ微笑んだ。
「さっき主人から電話がかかってきてね」
今年38歳になるとはとても思えない若々しい肌をした遠子さんは言った。
俺は慣れた様子で玄関に入りながら遠子さんの次の言葉を待つ。
「今日遅くなるから夕飯いらないですって。いつも遅いし食べてくるくせにどういう風の吹き回しかしらね」
遠子さんは怒っているような、呆れているような顔で言った。俺はどう返していいか分からず、曖昧に笑った。
遠子さんに抱かれた猫は俺を見て毛を逆立たせた。何度来ても猫は俺になつかない。俺と遠子さんの関係を、猫なりに快く思っていないのだろう。好きにはなれないが、賢い猫だと思う。
「今日は14時からシャイニン先生がいらっしゃるわ」
「いつもありがとうございます」
「もうすぐだものね。頑張って」
俺は軽く微笑した。
「ご飯食べてきた?」
「いえ、朝から何も食べていません」
「また明け方まで練習して、今まで寝ていたのでしょう。いいわ、昼食がてら何か作ってあげる」
「いつもすみません」
「何を今さら」
「はい」
透き通る綺麗な声がスピーカーから聴こえてきた。
インターホンに向かって「俺です」と言葉を投げると、「入って」と甘えるような声が返ってきた。
手入れの行き届いた庭を横切ると、玄関のドアが開いた。サファイアブルーの瞳を持つシャム猫を抱いて出てきたその人は、俺を見ると少女のように頬を赤らめ微笑んだ。
「さっき主人から電話がかかってきてね」
今年38歳になるとはとても思えない若々しい肌をした遠子さんは言った。
俺は慣れた様子で玄関に入りながら遠子さんの次の言葉を待つ。
「今日遅くなるから夕飯いらないですって。いつも遅いし食べてくるくせにどういう風の吹き回しかしらね」
遠子さんは怒っているような、呆れているような顔で言った。俺はどう返していいか分からず、曖昧に笑った。
遠子さんに抱かれた猫は俺を見て毛を逆立たせた。何度来ても猫は俺になつかない。俺と遠子さんの関係を、猫なりに快く思っていないのだろう。好きにはなれないが、賢い猫だと思う。
「今日は14時からシャイニン先生がいらっしゃるわ」
「いつもありがとうございます」
「もうすぐだものね。頑張って」
俺は軽く微笑した。
「ご飯食べてきた?」
「いえ、朝から何も食べていません」
「また明け方まで練習して、今まで寝ていたのでしょう。いいわ、昼食がてら何か作ってあげる」
「いつもすみません」
「何を今さら」