【短】背伸びしてモックカクテル




「志緒さん。さっき店の外まで来てたよね。走っていくところが見えて……その、一瞬泣いているように見えたもので」


「……まさか、それで追いかけてきてくれたんですか?」




 驚いて目を見開く私に、春樹さんは気恥ずかしそうにうなずいた。




「何があったのかわかりませんが、店まで戻りませんか?」


「……嫌です」


「どうして?」


「あの子が……月岡さんがいるから」




 つい正直に言ってしまった。


 春樹さんが不審がるに決まってる。恐る恐る顔を見ると、彼はショックを受けたように表情を硬くこわばらせていた。

 だけどそれは一瞬で、すぐ何かに気付いた様子で言った。




「あ……『月岡さん』って、もしかしてさっき志緒さんが来たとき店にいた女子高生のこと?」


「……? はい」


「何だ、すげぇびっくりした……。そっか気まずいよなそりゃあ」


「え?」


「大丈夫、あいつならもう出てったはずなので」




 春樹さんはそう言って笑うと、半ば強引に私を立ち上がらせた。




「喉渇いてませんか? 何か飲みましょう」



< 15 / 22 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop