【短】背伸びしてモックカクテル
だけどあの日と違って、今日は私がちゃんと話したかった。
意を決して口を開く。
「春樹さん、月岡さんは彼氏がいます。だからその、好きならやめておいた方がいいと思います」
「うん、知ってる」
春樹さんは穏やかな表情を少しも崩さない。そのせいで、すぐ言葉につまってしまった。
「っ、そうですか……」
「はは、ねえ志緒さん。一つ聞くけど……僕の苗字って知ってたりする?」
「え」
どうして突然そんなことを聞かれたのかわからなかった。
だけど……考えてみれば、春樹さんという名前しか知らない。何度も何度も話しているはずなのに不思議だ。
「月岡春樹っていうんだ」
「……え!? つきおか!?」
「ちなみに叔父さんは月岡陽太っていうんだけど、Soléil&Luneっていう店の名前はそこからきてたりするんだ。太陽が出てる時間も月が出てる時間も営業してるって意味も込めてるらしいけどね」