【短】背伸びしてモックカクテル
彼の言う好きな人は、月岡さんという隣のクラスの女の子だった。素朴で飾らなくて嫌味な感じがしない……大人のように見られたくて、見栄を張ってばかりの私とは逆のタイプの子。きっと、一緒にいて疲れない子。
別れようと告げられた直後のことはあまり覚えていない。気付けば激しい雨に打たれながら外を歩いていた。雨に降られ彼氏に振られ……だめだ、一切笑えない。
その人に声を掛けられたのは、そうやって泣きながら歩いたせいですっかり疲れ切り、しゃがみ込んでしまったときだ。
「とりあえず店までおいで。このままだと風邪ひくから」
「……」
精神的に弱っている状態のときに知らない人から優しい言葉を掛けられたせいで、涙が溢れて止まらなくなっていた。
私のよたよたとした足取りに合わせてゆっくり歩いてくれた彼に連れてこられたのが、駅前の通りから少しだけ外れた場所にある“Soléil&Lune”というカフェバーだった。