ブルーガーネットな恋 ~エリート上司は激愛を隠して部下に近づく~
 いろいろ大変だけど、この仕事を選んで良かった。
 子供の頃から宝石に魅せられた柚花は、当然のようにジュエリー業界を目指し、全国どころか世界展開している『parure』に就職した。

 パリュールはフランス語で装身具のセットのことで、もとは古フランス語で「装飾」を意味する言葉だ。その店で、二十八歳になった現在は副店長として勤めている。

 同期はもう店長としてバリバリ働いている人もいれば、本社で総合職として働いている人もいる。多くの人が訪れる老舗デパートの重要な店舗とはいえ、副店長という立場はじれったかった。

 やりがいはたくさんある。店長にあてにされてもいる。だが、早く店長と呼ばれて同期と並びたい気持ちもあった。
 焦りはあるが、一つを除いてはここでの勤務は楽しい。さざめくように輝く宝石に囲まれ、お客様を幸せにするお手伝いができるのだから。

「深雪山さん、あんなに時間かけてやっと一件の販売ですかあ?」
 バカにしたような口調に、柚花の笑みが凍り付いた。

 出た、この店の唯一にして最大の「悩みの種」が。
 柚花は声の主、柴原萌美(しばはらめぐみ)に顔を向ける。

 今日もかわいく巻いた茶色の髪に派手なメイクだった。おおぶりのピアスがぎらぎらしている。かわいくて華やかだが、押しつけがましい、といつも思ってしまう。私ってかわいいでしょ、異論は認めないから。全身でそう言っているかのようだった。

 彼女は柚花の四つ下の二十四歳、パート従業員としてここで働いている。個人の売上は柚花より上で、だから彼女は柚花より自分が上だと錯覚している節がある。
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