ブルーガーネットな恋 ~エリート上司は激愛を隠して部下に近づく~
「大丈夫ですか?」
「はい」
 京吾の問いに、そうとしか答えられなかった。

 萌美がわざとやった証拠はないし、京吾も進も、誰も現場を見ていないだろう。ただ不注意の事故だと思われるに違いない。

 ああ、と柚花は内心でため息をつく。
 お気に入りのワンピースが。
 給仕が慌てて寄ってきてタオルをくれたり皿を片付けたりし始める。

「萌美」
 進の咎めるような声に、萌美はしなをつくって進を見る。
「ごめんなさい、伯父様」
 進は顔をしかめ、すぐに柚花に頭を下げた。

「うちの姪が申し訳ない」
「いえ、大丈夫です。萌美さんのお召し物が無事で良かったです」
 柚花は無理やり笑顔を作った。接客業で培った技術ともいうべき笑顔。

「まったく粗忽者でして。仕事でもご迷惑をおかけしているでしょう」
「大丈夫です」
 重ねて柚花は言った。まさか迷惑かけられっぱなしだとも言えない。

「すぐに洗わないといけませんね」
 京吾が言い、柚花は頷いた。
 給仕の様子を見計らい、クリームまみれになったタオルをお礼とともに返す。
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