ブルーガーネットな恋 ~エリート上司は激愛を隠して部下に近づく~
 急に崩れた口調に、柚花はなんだか居心地が悪くなった。心の距離までぐっと近づいたように思えてしまう。

「深雪山さんも、敬語じゃなくていいから」
「そんなわけにはいきません」

「柚花、って名前で呼んでいい? 俺も名前で呼んで」
 驚いて返事ができないでいると、京吾は残念そうな笑みを浮かべた。

「まだダメか。急すぎたかな」
「いえ……」
 急もなにもない、と柚花は思う。偽装の恋人なんだから、名前で呼び合うなんてできるわけがない。

「さっきの、本当?」
 耳元でささやくように聞かれ、吐息が耳にかかった。柚花の背筋がぞくぞくする。

「さっきの、とは」
「恋人にフラれたって話」

「本当です」
「そう……。俺につきあおうって言われて、嫌じゃなかった?」

「嫌なんてことないです。うれしかったです」
「それなら良かった」

 答えて、彼は耳たぶにチュッとキスをする。
 柚花は硬直してただ顔を赤くしていた。

 なんで急にそんなことをされるのか、わからない。これまでの京吾の印象はスマートな紳士でしかなかった。海外に行ったせいで性格が変わってしまったのだろうか。
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