ブルーガーネットな恋 ~エリート上司は激愛を隠して部下に近づく~
「安曇さん、酔ってますよね」
 彼はワインをグラスに二杯程度、飲んでいた。会社の飲み会ではもっと飲んでいたから、きっとお酒には強いはずだ。だが、このありさまは酔っているとしか思えない。

「ああ……悪い、焦り過ぎた。恋人と別れたばかりなんだよな。だけど」
 抱きしめる腕にぎゅっと力がこめられ、柚花の鼓動はなおいっそう早くなる。

「待って、苦しい……」
「悪い」
 彼は慌てて腕を緩め、だけど柚花を離さない。
「日本に帰るとなったとき、一番の楽しみは君に会えることだった」

 なんでそんなことを言うんだろう。
 柚花はだけど、先を聞くのが怖かった。

 憲士だって、つきあい始めは甘い言葉をたくさんくれた。
 だが、結局は萌美を選んで、柚花を捨てたのだ。

 本当の恋人でもない彼に口説かれてその気になったりなんかしたら愚の骨頂だ。彼は酔っているのだし、海外ではこんなの社交辞令なのだろう。きっとそうに違いない。

「もうやめてください。そんな必要ないんですから」
 柚花がもがくと京吾は腕を離してくれた。

 振り返った柚花が見たのは、熱い瞳で自分を見つめる京吾だった。

 どうして、そんな目を?
 視線に縫い留められたように、柚花は動けなくなった。
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