ブルーガーネットな恋 ~エリート上司は激愛を隠して部下に近づく~
「自分を責めないように。反省は必要だけど、責めることと同義ではないからね」
「……はい」

 怒らない彼の優しさが胸に痛い。いっそ怒鳴り付けてくれたなら。
 そう思うが、そんなのは自己満足だ、と思い直す。

「定時を過ぎてる。今日はもう帰っていいから。明日も仕事なんだし、頑張ってもらわないと」
「……はい」
 浮かびそうになる涙を必死にこらえ、柚花は答えた。

***

「あー疲れた。なんで働かなきゃいけないのよ」
 仕事を終えた萌美はバックルームへの通路を歩きながらぼやく。

 萌美はこれまで両親に甘やかされて育ってきた。
 ほしい物はたいてい買ってもらえたし、周囲の男どもはかわいい自分をちやほやしてくれる。

 大学を卒業するまで、働いたことなんてなかった。
 学生の頃はバイトなんてしなくていい、勉強が学生の本分だ、とか言っていたのに。
 だから就職活動もろくにしなかった。

 だが、両親は「働かないと世間体が悪い」と言い、萌美に働くようにとせっついた。仕方なく、楽そうなところに就職を決めた。

 急に働けと言われても働く意義なんて感じられず、最初に就職した会社では、困ったことがあればいつも通りに甘えてなんとかしようとした。

 だが、それが通じなかった。
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