ブルーガーネットな恋 ~エリート上司は激愛を隠して部下に近づく~
 自分は間違いなく運んだし、それは京吾も見ている。

 ケースがひとりでに移動することはない。
 では、誰かがあのケースを段ボールごと持ち出した、ということになる。

 店内に立ち入れるのは店員のみ。自分でも京吾でもなければ、触れるのはあとは萌美と沙知絵だけだ。

 まさか。
 柚花の顔から血の気が引いた。

 まさか、萌美が嫌がらせのために?

 あの日、珍しく彼女は朝から来ていた。いつもぎりぎりにしか来ないのに。

 まさか、と再度、柚花は自分に言い聞かせる。
 いくらなんでも、そこまでするだろうか。火の粉は彼女にも降りかかるのに。

 スマホを出して京吾に連絡しようとして、だが、やめた。

 こんな証拠もないような思い付きで他人を貶めるようなことを言いたくはないし、お兄さんが来ているというのならその時間をこんな話で邪魔したくない。

 自分が彼女を苦手としているからって、こんな告げ口は陰口よりもたちが悪い。
 そう思い、再度スマホをバッグにしまった。
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