ブルーガーネットな恋 ~エリート上司は激愛を隠して部下に近づく~
 実際、まったくケガはしていない。ナイフを向けられただけで、あとは京吾が倒してくれた。
「本当に?」
 心配そうな彼の瞳に、柚花の胸がドキッと鳴った。

 こんなときに。
 柚花は胸を押さえる。

 彼の手が柚花の頬に伸び、触れる直前でハッとしたように下ろされた。

「柚花!」
 名を呼ぶ声にそちらを見ると、憲士が走って来るところだった。

「大丈夫か、お前」
「……大丈夫です」
 柚花は顔をしかめそうになり、営業スマイルを取り繕った。

「心配したぞ」
 憲士が伸ばす腕を、とっさに柚花は避ける。

「なんで逃げるんだよ」
「そういうことはやめてください」

「なんだよ、俺がせっかくよりを戻してやろうと思ったのに」
「はあ!?」
 思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

「どういうことですか」
 険しい顔をした京吾が言う。
< 84 / 100 >

この作品をシェア

pagetop