ブルーガーネットな恋 ~エリート上司は激愛を隠して部下に近づく~
「柚花……」
 戸惑うような憲士の声に、柚花はただ首を振る。

「彼女には俺がいるから大丈夫だ」
 泣き顔を隠すように京吾に抱きしめられ、柚花は大きな胸にすがりついた。
 憲士はがくりと肩を落とし、二人に背を向けて店に戻って行った。



 京吾はタクシーを捕まえ、まだ涙の残る柚花とともに乗り込んだ。
「自宅まで送ります。住所は?」
「でも……」
「もうタクシーに乗ってますから」
 優しく言われ、柚花は観念して住所を告げた。

 涙が収まるまで、京吾は黙って肩を抱き、寄り添ってくれていた。
 それが嬉しいのと同時に、なんだか気まずい。
 タクシーを降りる頃にはなんとか涙も消えていた。

「一緒にいたいのですが、これから本社に報告に行かなくてはならなくて」
 タクシーを降りた柚花に、見送りのためにいったん降りた京吾が言う。

「大丈夫です。ここまでありがとうございました」
 なんとか笑顔を作る柚花の額に、京吾は軽く唇を落とす。
 慌てて体を引いた柚花に、京吾はふっと笑顔を見せた。

「……明日は休みですね。ゆっくり休んでください」
「はい」
 柚花は深く頭を下げた。

 京吾を乗せて走り去るタクシーを見送り、柚花はため息をつく。
 キスされた額が妙に熱くて仕方がなかった。

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