ブルーガーネットな恋 ~エリート上司は激愛を隠して部下に近づく~
 心当たりと言えば、偽装恋人の件しかない。
 そもそもが萌美に対しての見栄みたいなことから始まったものだ。

 萌美がいなくなった今、それを続ける意味はない。

 柚花にとってのメリットしかない偽装恋人だ。彼にもメリットがあると言っていたが、まったくそれは感じられない。早く京吾を解放してあげるのがせめてのもの礼になるだろうか。

 話はどこでするのだろう。近くのカフェだとデパートのほかの従業員もいそうで嫌だな。
 そう思いながら、京吾とともにデパートを出る。
 京吾はすぐにタクシーを拾い、柚花とともに乗り込んだ。

「どこへ行くんですか?」
「着いてからのお楽しみ」
 いたずらっぽく京吾が言う。
 それすらも魅力的で、柚花の胸がきゅんと締め付けられた。

 タクシーが着いたのは川べりだった。
 京吾の誘導で、桟橋へと歩いて行く。
 その先には白い屋形船があった。

「個室を取ったよ。ゆっくり話せるかと思って」
 柚花は返事ができなかった。個室なんて高そうで、だけど今さら断ることもできない。

「嫌だった?」
「そんなことはないです!」
 このぶんの代金はちゃんと払わないと。だけどワンピースの代金だって受け取ってもらえてないのに。
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