「お前を愛することはない」私も魔獣以外愛する気はありませんの。お揃いですわね

「お前を愛することはない」

「お前を愛することはない」

 想いを通じ合わせ婚約を結んだ一組の男女。

 王太子ヴァクト・ジェニエスと公爵家の娘クロエ・ペルヴィス。

 彼らは恋人同士の甘い時間を過ごした機会が一度もないまま――ヴァクトの一言によって、関係修復が不可能な程に亀裂が入ってしまった。

「俺からの愛が、君に向けられることはないんだ」

 なぜ二度も似たような言葉を口にする必要があるのか。
 さっぱり理解できないクロエは、顔色を変化させることなく黙ってその場に佇んでいる。

 (彼がこうして、白黒はっきりつけてくださったことを喜ばなければ……)

 殿下は残念ながら、クロエをほっぽり出して浮気三昧の生活を送ることなく――他に好きな女性がいるわけでもなかった。
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