「お前を愛することはない」私も魔獣以外愛する気はありませんの。お揃いですわね
「わたくし達は想いを通じ合わせているんですもの。種族の壁など飛び越えて、ずっと一緒に暮らしましょう!」
「ガウッ!」

 クロエから素晴らしき提案を受けた獣は、元気よく返事を返す。

 だが、その返答を耳にしたクロエの顔色はどんどんと悪くなっていく。
 心配そうに彼女を眺める獣の毛並みを優しく撫でながら、クロエはか細い声で呟いた。

「あの方と婚約破棄をしても、平気ですわ……。わたくしには、あなたさえいれば……」
「グルル……」

 先程の光景を思い出して、不安になったのだろう。

 狼を抱き締めながらゆっくりと上半身を起こしたクロエは彼と婚約を結ぶ前に過ごした日々のことを思い浮かべ、瞳に涙を潤ませる。

『クロエ。俺は君を愛している』
『殿下……。わたくしもあなたへ、永遠の愛を誓いますわ』

 二人が婚約者として過ごすようになって一年間が経過したが、デートどころかまともな会話すらも許されなかった。

『帰ってくれ』

 彼へ会いに来ても背を向けて追い返される苦しみをこれから経験しなくてよくなると思えば、これほど素晴らしいことはないだろう。
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