「お前を愛することはない」私も魔獣以外愛する気はありませんの。お揃いですわね
 (そう。今はとても、清々しい気分ですわ)

 彼よりも、もっと大切な人ができた。

 狼は婚約者が生み出したクロエの寂しさを埋めるようにするりと隙間へ入り込み、彼女を愛してくれている。

 (たとえ人間の言葉を、交わし合えなくとも……)

 鳴き声だけでも何を伝えたいかくらいは、よく理解しているつもりだ。

 (女としての幸せなど、必要ありませんわ)

 王太子との婚約が破棄されたと知られたら、社交界で傷物扱いされて社交どころの話ではなくなってしまう。

 格好の的になるくらいであれば、彼が大切に育てた獣を奪い取り、人里離れた山奥でひっそりと穏やかな暮らしを営んだほうがいいに決まっている。

「わたくしは、あなたのことが大好きですわ」
「ガウッ!」

 ヴァクトへの想いを断ち切るかのように。
 獣に告げたクロエの気持ちへ答えた狼は、彼女の頬をぺろりと舌で舐め取る。
 すると、獣の舌が彼女の唇に触れ合った。

 (わたくしの、初めての口付けの相手があなたなんて……)

 ショックだったのではない。
 むしろ、大好きな相手と交わし合えたのだから、これを喜ばずとしてどうするべきか。
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