「お前を愛することはない」私も魔獣以外愛する気はありませんの。お揃いですわね

王太子の事情

「ああ、殿下。なんとお労しい……」

 去り行くクロエの姿を無言で見つめたヴァクトの姿を真横で目撃した従者は、瞳から流れる涙をハンカチで拭いながら主に同情する。

 彼が先程婚約者に告げた言葉が、本心ではないと知っているからだ。

 ある特殊な事情を抱えたヴァクトを受け入れられる女性は、この世界のどこを探しても居ないと思っていたが――。

 二人は恋に落ち、愛を確かめ合ってしまった。
 それが悲劇の始まりになるなど、王太子と従者は思いもしない。

『殿下を愛した彼女ならば、受け入れてくれるだろう』

 きっと大丈夫だと、一縷の望みを賭けてヴァクトを彼女へ託したのは間違いだった。

 これ以上主へなんと言葉をかけてやればよいものかと従者が迷いを生じさせれば、ヴァクトは低い声で彼へ命じた。

「貴様はここにいろ」
「しかし、殿下! もう、ペルヴィス公爵令嬢とは……」
「……彼女の真意を確かめてくる」

 彼女の背中を追いかけたところで、ヴァクトが傷つくだけだ。
 従者は部屋を出ていこうとする主を止めたが、彼の意志は固い。
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