「お前を愛することはない」私も魔獣以外愛する気はありませんの。お揃いですわね
 ヴァクトは指をパチリと弾いて己の姿を獣へ変化させると、外の様子を窺うため壁へ開けられた小さな穴にフサフサの毛並みを滑り込ませ、勢いよく飛び出して行った。

 頭にくっついた2つの先端が尖った耳はピンっと伸び、もふもふとした触り心地のいい毛並みは銀色に光り輝く。
 美しくしなやかな四肢が地を駆けるたびに、ヴァクトは言いようのない想いに支配されていた。

 (クロエはなぜ俺を、愛せないと告げたんだ? )

 ――彼と彼女が初めて顔を合わせたのは、王太子が王城を抜け出した際に獣の姿でうろついていた所を魔獣と間違えられ、正義感を拗らせた人間に始末されそうになった時だ。

『一体なんの権限があって、この子の命を奪おうとしていますの!?』

 ヴァクトが散歩中に偶然立ち寄った美しき花畑は、クロエの父親が納めるペルヴィス公爵領の一部であったらしい。
 彼女の一喝により、人間達は逃げていく。
 暴行を受けていた彼は重症を負う程度でどうにか危機を脱し、命を奪われることなく一命を取り留めた。
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