「お前を愛することはない」私も魔獣以外愛する気はありませんの。お揃いですわね
『本当に酷い怪我ですわ……。治るまで、わたくしが面倒を見ます。安心して、身体を休めてくださいませ』

 ヴァクトの身体にぐるぐると包帯を巻きつけたクロエは、獣のフサフサとした毛並みに指先を這わせ、聖母マリアのような笑みを浮かべて彼に告げる。

 その美しく光り輝く笑顔に心を奪われたヴァクトは、不相応な願いを抱いてしまった。

 (――彼女が欲しい)

 だが――彼女が彼へ親切にしてくれるのは、ヴァクトが獣の姿をしているからだ。
 人間と獣。種族の異なる二人が心を通わせ合えたとしても、産まれる子どもは混血の子ども。
 間違いなく、迫害を受ける対象となる。

 (いくら俺の身分が、誉れ高いものであったとしても――)

 いずれは獣の王となるべき男が率先して人間の娘を娶ると決めたなど知られたら、下々の者達も人間の女達を恋愛対象として見始めてしまうだろう。

 (混血が増えることは、いいことではない)

 ならば、ヴァクトが取れる方法は一つだけだ。

 ――獣の王としてではなく、一人の人間として彼女へ想いを告げる。

 傷の癒えた彼はその身を人間の男へ変化させると、赤い薔薇を持ってクロエへプロポーズをした。
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