「お前を愛することはない」私も魔獣以外愛する気はありませんの。お揃いですわね
『俺の婚約者になって欲しい』
『殿下……喜んで』

 満面の笑みを浮かべたクロエは、彼の手を取り婚約を結ぶ。

 ――そのまま結婚までの道をまっすぐ進めたら、ここまで苦労はしていない。

 魔獣の国の王太子が人間の娘を婚約者に指名したことはすぐに国民の知る所となり、彼女の領地にはたくさんの獣達が押し寄せてしまった。

 クロエを好意的に思う者達だけであればよかったが――危害を加えるものまで大挙として押し寄せてしまえば、それを止めるためにも彼は表立って彼女へ愛を囁けなくなってしまったのだ。

 その結果、二人の道は違えてしまった。

 (けれど、もし)

 人間としてともに暮らすことはできなくとも。
 本来の姿で再び、彼女と心を通わせられたとしたならば――。

 (今度こそ俺は、誰に何を言われようとも彼女と添い遂げてみせる)

 強い覚悟とともに四足で大地を蹴った獣は、中庭に広がる花畑の中心で何かを探すように視線を彷徨わせるクロエへ勢いよく飛びついた。
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