「お前を愛することはない」私も魔獣以外愛する気はありませんの。お揃いですわね
「ただ、もしも婚約破棄が正式に受理されてしまえば……わたくしはここへ足を運べなくなってしまいますの」
「キャゥウ!?」

 狼は悲鳴のような鳴き声を上げると、クロエと離れるのが嫌だと叫ぶように毛皮を押しつけてきた。
 彼女も獣を安心させるように、ゆっくりと触り心地のいいふわふわとした毛並みを上から下へと撫でつけた。

「狼さんは、王城で飼われているのでしょう?」
「アオーン……」
「わたくしと一緒に、外へ出ればいいんですわ!」
「ガウ?」

 悲しそうに目を伏せた獣に、公爵令嬢は明るい声で提案する。
 狼はクロエがこの中庭へ姿を見せると待っていましたとばかりに彼女の胸へと飛び込んで行くが、手錠や首輪がついているわけではない。
 完全に、放し飼いの状態だ。

 (狼さんをドレスの裾の中へ隠せば、きっと守衛さんに止められることなく外へ出られるわ!)

 クリノリンによってふんわりと広げられたドレスの中へ獣が収まっている光景を想像したクロエは、狼と目を合わせて言い聞かせた。
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