警察の極上プロファイラーが実験と称して私を溺愛してくる
 空木小夜歌(うつぎさやか)は建物の前でいったん立ち止まり、不安とともに建物を見上げた。
 ビルは古びていて、雨の跡と思われる幾筋もの黒い線が垂れていた。かつては白かっただろう壁は全体的にくすんでいて灰味がかっており、おどろおどろしい。

 入口の上部には警察の紋章の下に『雲雀ヶ丘(ひばりがおか)警察』と大きな文字が浮き出ていた。
 正義の味方のいる場所には見えないな、と冗談めかして思ってみるものの、緊張がやわらぐことはない。

 深呼吸をして自分を落ち着け、数段の階段を上って中に入る。
 中ではばたばたと警察官が足早に歩いていた。
 なにがあったんだろう、と訝し気に首をかしげると、一人の女性警官が歩み寄って来た。

「どのような御用件でしょうか」
「……ストーカーの相談、みたいな」
 実際にストーカーの相談に来たのだが、つい「みたいな」と付け足してしまった。

「それでしたら三階の生活安全課になりますね」
 女性の言葉で三階まで階段を上り、生活安全課の札が掲げられた入口を見つけて中に入る。
 中はがらんとしていてひと気がなかった。奥にいる年配の男性がパソコンからひょいと顔を上げて彼女を見る。

「ご用件は」
「ストーカーの相談に来たんですが……」
「今は人が出払っててね。どうしようかな」

「俺が話を聞きますよ」
 後ろから声が降ってきて、彼女はびくっと振り返った。
 そこには背の高い無表情の男性がいた。
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