初恋〜統合失調症

錯乱

錯乱

頭の中が錯乱した。同時に会社を飛び出して行った。バス停で、龍太郎は乱れた動揺を落ち着かせようとした。バスが、運よくすぐやってきたので飛び乗った。座席中央に乗る。しばらくして、座席前方に座っている女性の客に目をやると、浩美に似ている。しかし、龍太郎は、ボーっとしていて、ボーっとしている目の錯覚にも見えた。意識はもうろうとしている。まるで酒に酔っている感じである。駆け足でアパートに戻り鍵を閉めた。しばらくして、会社から大家さんに電話があって、扉を叩く音がした。しかし、じっとしている状態であった。龍太郎は神にもすがる思いで、去年亡くなったおばあちゃんの手紙を、テーブルに立てかけて、お茶を一杯汲み飾った。そして布団にもぐる。しかし、なかなか寝付けない。龍太郎は音楽でも聴こうと、ステレオのスイッチを入れた。龍太郎が我に戻ることはなかった.なかなか寝付けない。その内に深い眠りに入る。目を覚ますと深夜一時。ステレオの音はそのままはいっている状態で深夜番組が流れていた。ラジオに耳を傾けていると、DJが妙な不自然な言葉を走らせた。「あの世から、なーんてね」ぼーとしていた龍太郎の頭に動揺が走った。スーツを着て作業着をその上に着込み、不自然な格好で部屋を出て行った。気のおもむくままに、電車に乗った。どこへ行くのだろうか。何かに誘導されるように山の手線に乗り宇都宮方面に向かった。財布を覗くと金が一銭もはいっていない。昨日から何も食べていないが空腹は感じないでいる。いつの間にか京浜東北線に乗っていた。知らない駅で龍太郎は降りた。切符を持っていない。ホームの端に行き駆け足で金網を駆け上り住宅街へと進んで行く。財布の中身は一銭もない。龍太郎は、自分に異常がある事を認識する余裕はなかった。まるで何者かに操られるように足を進めた。すると交番にたどり着く。龍太郎は、お金を落としたが、千円貸してくれませんかと警察官に尋ねた。ちゃんと、明日にでも返すんだよと、一筆書かされて千円札を受け取った。その金で、アパートに帰ろうと、ふたたび電車に乗り込む。それから、意識のないなかで妄想がはじまった。とにかく、早く部屋に戻りたい。上野駅に着いたのは、夜の八時を過ぎている。駅のロビーに居た大きな絵を眺めていた。どこかに浩美ちゃんがいる早く帰らなければ。龍太郎の妄想は止まらない。ふたたび、山の手線に乗り込む事にした。電車に飛び乗った。目黒駅に近づいた時に龍太郎の頭が爆発した。電車のドアが開くと同時に、反対ホームに飛び降り、電車が急ブレーキをかけた。電車は運よく、龍太郎の手前20メートルの地点で急停車した。鉄道警官が駆けつけ、「そんなに、死にたいかと交番に連れていかれた。しかし、龍太郎の妄想は、さらに強くなっていった。これが、2度目の衝動による。自殺未遂だった。

「ガチャン」龍太郎は、駅の交番に連れられていくその直後、大型トラックめがけて、勢いよく飛び込んだ。救急車がかけつけた。意識不明の重体である。連絡を受け、明日帰省する予定だった博に会社の人が駆けつけた。田舎の両親も、連絡が行き明日かけつけるそうである。浩美には入社早々と言う事もあり、両親は連絡しなかった。「いったいどうしたんですか」集まった両親も博も、みんなで、警察官に尋ねた。「ちょっと待って下さい、現在調査中です」警察官による事情説明があった。「昨日は、入社初日目だったんです。会社には遅刻せず出勤されたそうです。ロッカーで着替え中に会社を、突然飛び出したそうです。その後の行動は、本人の口から聞かないとわかりません。わかっているのは、午後9時、目黒駅で電車に飛び込み、駅前の交番に連れて行く途中に大型トラックめがけて。自殺としか考えられない勢いでぶつかったと言う事です。龍太郎は以前意識不明の重体である。
博の口から「最近、疲れているようだったよ、でも、自殺するなんて考えられないなあ」
博は、変な偶然があってねと言っていた言葉を口に出そうとしたが、胸の中にしまっておいた。
 三日が過ぎた、以前意識不明である。博は、つきっきりで看病している。龍太郎は、意識不明の中夢を見ていた。浩美との思い出の夢である。その時、夢の中に大型トラックが自分めがけて突進してきた。「うっ」龍太郎の、うなり声。「看護婦さん、今、意識が」龍太郎は、目を開けた。「どうしたんだ、俺、こんなになって」「トラックに飛び込んだんだよ」記憶が戻らない。命に別状はなかったようである。博が、龍太郎にくわしい状況を説明している。龍太郎は、なんか変な偶然にとりつかれていたことを思い出していた。しかし、口にする事はやめた。父は博に呼ばれた。「誰にも、話してはいないけども。最近、龍太郎の口から、変な偶然があってねと、という相談を受けたんだ」「そうか、で、どんな」
「変な偶然が、やたら多いとか」「それと、今回の事故、なんか関係があるのか」「心配だな」
「俺もそうなんだ、このままほっといて、秋田に帰る心境にはなれないし」
龍太郎は、会社を飛び出したのは、記憶がよみがえっている。ぼんやり外を眺めながら、考え込んでいる。父は、龍太郎が生まれた時から知っている。黙り込んでいる龍太郎を見るのは、はじめてである。そこへ、博がやって来た。父に、会社を飛び出してからは、誰とも接してないみたいなんだ。と伝えた。父は、なぜ、龍太郎が、自殺なんて考えられない。自殺と言っても、博の口からは、そんなの、絶対ありえないよと。龍太郎の、お母さんが、もう、とうげは越えたから、、あとは、私がやると。博へ言った。。龍太郎は、入院して一週間になるが、依然として、口数が少なく、「もう心配しないでいいよ」と言った。博は、明日帰る事にした。龍太郎は、一言「もう、大丈夫だから」と言って、博を見送った。まだ、足が自由に動かない。しかし、車椅子で院内を動く事は出来た。一週間が過ぎ、看病にずっと、付き添っている母親に病院の外に出てみたいなあと言った」「先生に許可をもらい、母親と外に出た。「あっちの庭に行きたいな」庭までは、少し下り坂になって、道を超えなければいけない。と、その時。母親が、手を離した瞬間。龍太郎の目に、ゴミがはいった。その時。車椅子が勢いよく、坂を下っていき、それを見た母親が「あっ危ない」龍太郎の車椅子が、走ってきた、車と正面衝突した。「ガチャン」凄い音が響き渡った。さいわい龍太郎の身体は、車椅子から落ちて、車椅子がトラックに衝突した。

二度も、あやうく死にそうになった龍太郎であった。リハビリも3ヶ月になり来週には退院できそうである。龍太郎の頭から、異常とも考える行動がなかなか頭から消えないでいた。しかし、気を取り直して、再出発を準備していた。両親は北九州市を後に、親父の実家のある熊本市に家を建てる予定でいた。浩美は、もう半年も龍太郎から連絡がない、やっぱり、初恋は実らないのかなあと、会社の窓を、ぼんやり眺めていた。龍太郎は浩美より東京を選んだんだと、部屋の窓をぼんやり眺めていた。求人雑誌をパラパラとめくり、ある、ページで目が止まった。医薬品の問屋である。営業見習いとある。早速会社のある。神田区に電話をして面接をお願いした。やがて、23歳になろうとしていた。まだまだ、何度でもやり直しができる。季節は、紅葉の綺麗な秋もやがて終わりを告げ、寒い冬を迎えようとしていた。龍太郎は気分転換に部屋も会社のある銀座には遠いが、住み慣れた目黒区に引っ越す事にした。博から電話があり、週末にやってくるらしい。しばらくぶりに、会うことにした。快気祝と言うことで、場所は博が決めていた。上野駅の近くの、すき焼き屋である。ふたりは、まず、ビールで乾杯した。
龍太郎は博に、トラックに飛び込んだ経緯を話した。博は「頭に何か変化があったんだな」しばらく、仕事は控えた方がいいのではと意見した。龍太郎もそう思った。無理をして、また、あんな出来事があったら、たいへんだなあと感じた。頭の切り替えの早い龍太郎は、会社に電話をして入社を取りやめた。あれは異常な感覚であったのは鮮明に覚えていた。パラノイアの妄想という、本を手にしていた。本屋さんに寄ったら、目に飛び込んできた。覚醒剤の事を書いてあった。自分の体に、虫が住み着いて、身体の肉をムシリトルていうものであった。しかし、覚醒剤というものの後遺症である。龍太郎は薬物をやっていた訳ではない。頭の異常は、やはり精神科になるのだろうか。精神病院なんて、考え た事もなかった。そういえば、高校に自転車で通学していた時に、鉄格子の窓のある病院の前を毎朝見ていた。とにかく、龍太郎は精神病院という、想像も出来ない病院に、とりあえず、行ってみようと思った。しかし、もしかしたら、入院となったら、ゾッとする身震いがする。電話帳で調べてみると、意外にたくさんの病院があるのに驚いた。脳裏に浩美の顔が浮かんできた、精神病なんてなったら、どう思うだろうか。
大森精神病院の玄関に龍太郎は立っていた。入ろうか、今一つ決断が出来ないでいたが、勇気を振り絞って窓口へと向かった。「どうしましたか」 「ちょっと先生に相談が」診察に、30代だろうか、先生がやってきた。龍太郎は、これまでの、いきさつを話した。 「それじゃ、お薬出しときますから、又、お薬が切れたら、来て下さい。龍太郎は、あまりにも、簡単な診察に、あ然としてしまった。よく、精神患者って、薬づけにしてしまうと言う話を、雑誌で読んだ事がある。その後、龍太郎は病院へ行く事はなかったし、薬も服用しないでいた。3ヶ月程、貯金をはたいて、のんびりと生活していた。別に変わった事もなかった。花見も終わり、暑い夏を迎えようとしていた。そろそろ、仕事をしなければ、貯金も底を付いてしまう。龍太郎は、数ヶ月前に採用になった、医薬品の問屋さんに、ちょっと、交通事故にあい、しばらく療養しようと、断りましたと事情を説明し、また採用される事になった。精神的な出来事は、すっかり忘れていた。事故の後遺症もなく、身体 はすこぶる元気である。克浩は浩美の夢を見た。無性に会いたくなった田舎に帰るかと思った。いい思い出のない東京に魅力を失っていた。再出発するか
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