いるかのキーホルダー
3日目
なぜ私は今日もこの屋上に来ているのだろうか。
本当になんで?誰か教えて?しかも昼間に。
なんて言ってもここには私1人しかいないのだから誰からも答えなど返ってくる訳もなく。
返ってきたら返ってきたで怖いよ。
なんてことを考えながら今日はコンビニで買ってきた唐揚げを食べる。
うん、美味しい。多分。
唐揚げを食べていたらふと思った。
律儀に待っている必要はないのではと思い、
おもむろに立ち上がりいるかのキーホルダーを置いてこの前と同じようにフェンスに手をかける。
ガチャリ
その時、屋上のドアが開いた。
藍沢唯がこちらを見ている。完全に見られている。
やばい。
「あ。」と思わず声が出た。
「お姉さん??」そう言いながら藍沢唯がにこりと笑いながら私の方に向かってくる。
「…すみません、鳩を見てただけなんです。」と私は答える。
「鳩なんてどこにいるんですか空さん。」
と藍沢唯が表情を崩さず私を見つめたまま言う。
…なんか怖いこの藍沢唯。
「全く…。空さん行きますよ。」そう言ってまた藍沢唯はまた私の手を引っ張って屋上のドアを開けて歩き出した。
ちなみにちゃんといるかのキーホルダーも回収してた。
そんなこんなで私が連れてこられたのは、水族館だった。
水族館に来るのは何年か振りだったのでこんな感じだったのかと驚いたのはもちろんなのだが…
藍沢唯が来て1番に「魚美味しそう…。」と呟いたことにも驚いた。
この男はご飯の事しか頭にないのか。さっそくレストラン行こうとしてるし。なんて考えてたらほらやっぱり。
「空さーん!ここお刺身食べられます!」そう言いながら手招きしてる。
出会って数日しか経ってないけれど藍沢唯の印象は食いしん坊で固まりそうだ。
ちょっとだけ、面白いな、なんて思った。
「空さんが…少し笑った。」いつの間にか藍沢唯は近くに来ていてそう私に言った。
え?笑った?私が?
「そんな訳…。」と私は返す。
「今、少し笑ったんですよ!見た!?ってあ、見れないのか。」と藍沢唯は自分で言って自分で落ち込んでる。
なんなんだこの人は。
「見間違いだよ。」私はそう誤魔化してレストランへと向かった。
その後を藍沢唯が「えー。見たんですよ。」と言いながら追いかけてくる。
私はこういう時間もありだなと少し思い始めた。
レストランから出て次に向かった先はお土産コーナーだ。
海の生き物のぬいぐるみやお菓子やおもちゃなど色んなものが売っている。
その中でも一際目立つものはいるかの大きいぬいぐるみ。
そう、それを今両手で抱えてレジに並んでいるのは紛れもないさっきレストランで刺身をたらふくたべていた藍沢唯だ。
「ねぇ、本当にそれ買うの?」私はレジに並んでいる藍沢唯に問いかけた。
「買いますよそりゃ。いるか好きに買わないという選択肢は無いです。」となぜかドヤ顔で答えてくる。
なんかムカつくな…。
「…。」藍沢唯が何かを呟く。
人混みのせいか何も聞こえなかった。何を言ったのか聞こうとする前に藍沢唯の番になってしまった。
特大いるかのぬいぐるみも買い終わり、再び屋上に戻ってきた頃には既に夜だった。
「空さん、今日はどうでしたか?」藍沢唯は聞いてきた。
今日はお姉さんじゃない。
「今日はいつもと変わらない憂鬱な1日だったよ。」そう私は返した。
「そっかぁ…。」と言って藍沢唯はまた一瞬悲しそうな顔をした。
「でも、ちょっとだけ楽しかった。」続けて私は言った。
「本当に!」そう言って藍沢唯は嬉しそうな顔をした。
「じゃあ、空さん。明日は最初あった時みたいに深夜に来てね。待ってるから。後これあげる。それじゃあね。」
藍沢唯は私に水族館で買った特大いるかのぬいぐるみを渡してそのまま屋上のドアを開けて帰って行ってしまった。
はい?
え、このぬいぐるみどうやって持って帰れと…?
やっぱ藍沢唯は嵐のような人だ。
あ、訂正。竜巻。
こんなんじゃ、今日の私もいなくなれない。
いやふと思った。もう既に少し楽しくなってるような気がする。なんて。
今日もまたいるかのキーホルダーと横に寝てる特大いるかのぬいぐるみと一緒に真っ暗闇の夜空を眺める。
また少しだけ真っ暗闇なはずの夜空が綺麗な気がした。