目覚めた眠り姫は目覚めさせてくれた魔術師に恋をする

27 嫉妬

 王城の一室にヴェルデはローラを連れてきた。

(まぁ、なんて素敵なお部屋なのかしら……!)

 ローラは目を輝かせて部屋を見渡す。キラキラと輝くシャンデリア、上質な家具や小物、ベッドは天蓋付きのキングサイズだ。これで来客用の部屋とは、さすがは王城だ。

 さっきまでベリックに捕まり恐ろしい思いをしたというのに、ローラはなぜかそんなことさえも他人事のように思えてならない。突然の恐怖心と安堵感で混乱しているとはいえ、こうして部屋の豪華さにうつつをぬかしている自分はおかしいのではないかと思えてしまった。

「ローラ様、大丈夫ですか?」

 百面相のように表情をころころ変えているローラを心配したのだろう、ヴェルデがローラの顔をそっと覗き込んだ。その瞳には不安と心配が混ざり、子犬のような垂れた耳さえ見えるかのようだ。

(私はまたヴェルデ様を心配させてしまったのだわ。私は、いつもヴェルデ様を縛り付けている……)

 ヴェルデの表情をみてベリックに言われた一言が頭をかすみ、ローラの心は落ち込んだ。

「ローラ様、とりあえずソファに座りましょう」

 そう言ってヴェルデはローラをソファへ座らせ、自分も隣に静かに座った。ソファに座ってからもずっとローラの手を優しく握っている。

「心配をかけてしまってすみません。先ほどまであんな目にあっていたのに、部屋の豪華さに感動してしまって……なんだか恥ずかしいですね」

 ローラが苦笑すると、ヴェルデは静かに首をふる。

「いいえ、きっと感情の防衛本能でしょう。それに、ローラ様をあんな危ない目に合わせてしまったのは俺の落ち度でもあります。もっと周囲を警戒すべきだった。王城だからと気が緩んでいたのかもしれません、あんな一瞬でローラ様を奪われるだなんて……」

 悔しそうに苦しそうにそう呟くヴェルデを見ながら、ローラはまた心が落ち込むのを感じる。

(私のことでそんなに苦しそうにしてほしくない。ヴェルデ様にはいつだって笑顔でいてほしいのに……私が側にいることでこんなにもヴェルデ様を苦しめてしまうのだわ)



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