目覚めた眠り姫は目覚めさせてくれた魔術師に恋をする
 ヴェルデを見ながらローラはどんどん気分が落ち込み、表情も暗くなっていく。顔を上げたヴェルデと目が合うと、ヴェルデが一瞬目を見開き、すぐに口を開いた。

「ローラ様、あの男に何か嫌なことをされたり言われたりしませんでしたか?」

 そう聞かれた瞬間、ローラの肩がビクッと震える。

「……何かされたり、言われたんですね。教えてください。一体何があったのですか」

 ヴェルデのローラの手を握る力が強くなる。

「だ、大丈夫です。大したことはありません。ヴェルデ様が心配するようなことは何も」

「だめです。ローラ様がよくても、知らないままでいるなんて俺は耐えられない。どんなことでもいいから、教えてほしい。俺たちは婚約してるんですよ」

 話すまでこの手は離さないという気迫が伝わって来る。この様子では、ヴェルデは絶対に譲らないだろう。ローラは静かにため息をつくと、かすかに唇を震わせながら口を開いた。

「……手首と、肩を掴まれました」

「それから?」

「……髪の毛に触られて」

 ヴェルデの表情が険しくなる。

「それから?」

「……頬を触られました」

「それから?」

 ヴェルデの表情はどんどん険しくなり、声も低くなっていく。

「……耳を、舐められました」

 突然カタカタカタ……と音がし始めると、部屋の中のありとあらゆるものが静かに揺れだした。

「じ、地震?」

 ローラが慌てて周囲を見渡すと、揺れは次第に収まっていった。そして、ヴェルデは片手で顔を覆い、大きく息を吐く。

「すみません、揺れの原因は俺です。感情が、抑えられませんでした」

 顔を上げてローラを見つめるヴェルデの顔は悲しそうだがその瞳は嫉妬にまみれている。あまりの気迫にローラが茫然としていると、ヴェルデはローラの両手を優しく掴みなおし、言った。

「それで、その後は?」

「そ、それだけです」

「本当に?」

「本当です」
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