目覚めた眠り姫は目覚めさせてくれた魔術師に恋をする
 咄嗟に答えると、ヴェルデはローラの右側の髪の毛にそっと触れる。優しく髪をなでると、髪を一束とってそっと口づけた。そして、そのままローラの右頬に手を伸ばす。

(え、え?)

 ローラはまだ固まったままだが、ヴェルデの手はローラの頬を優しく撫でる。そしてヴェルデは静かに顔を近づけてきた。ローラは驚きのあまり動けない。ヴェルデの美しいアメジスト色の瞳に射抜かれて目が離せなくなっている。ヴェルデは顔を頬に近づけると、頬へ静かにキスをした。

(え、ヴェルデ様に、キス、されてる?)

 ローラの頬に伝わるヴェルデの唇の柔らかい感触。そしてヴェルデの静かな息遣いが頬をかすめて、今にも胸が張り裂けそうなほど心臓が激しく動いている。ローラはどんどん顔が熱くなっていくのを感じてくらくらしてしまった。

「耳も、右側ですか」

 頬から唇が離れると、耳元でヴェルデがそっと囁く。その低く甘い声にローラは脳内を鈍器で殴られたかのように感じた。

「は、は、い……」

 聞こえるか聞こえないかほどのか細い声でローラがなんとか答えると、ヴェルデはそのまま耳にかぷっとかぶりついた。

「……!」

 思わずローラの体が震える。だが、そんなことはお構いなしにヴェルデは耳にキスを落とす。何度も何度も小さなキスをしてから、ヴェルデはゆっくりとローラから体を離した。

 ローラは固まったまま顔を赤くしてヴェルデを見つめると、そこには恐ろしいほどの色気を纏い「男」の顔をした美しい魔術師が静かに微笑んでいた。



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