目覚めた眠り姫は目覚めさせてくれた魔術師に恋をする
「それに?」

「あ、あの、いえ、その、オーレアン興にされたときは嫌悪感と恐怖しかなかったのですが、ヴェルデ様にされたときは、その、なんといいますか、嫌な気持ちが全くなくて不思議だったのです」

 顔をどんどん赤らめ、言葉もか細くなっていく。そんなローラの言葉に、ヴェルデは両手を顔に当ててうなり始めた。

「ヴェ、ヴェルデ様?」

「そんな顔でそんなこと言うのは反則です。どれだけ俺が我慢してると思ってるんだ……。堪えろ俺、堪えるんだ。理性理性理性理性理性」

 ヴェルデはぶつぶつとまるで呪文でも唱えるかのように一人でつぶやいている。そして突然パシン!と自分の頬を自分で叩いた。

「!?」

 驚きのあまりローラは唖然としてヴェルデを見つめる。だが、ヴェルデは何事もなかったかのように落ち着いた様子でローラを見つめる。

「だ、大丈夫ですか?」

「大丈夫です、理性を保つためなのでお気になさらないでください。そんなことより」

そう言って、ヴェルデはまた静かに優しくローラの両手を握った。

「あの男に何を言われたのですか」

 ローラの肩がビクッと震えた。ヴェルデの静かで深い深いアクアマリン色の瞳がローラの心を射抜く。言われたことよりも先にされたことを言えばきっとごまかせると思ったのだが、結局何もごまかすことはできない。そうわかっているのに、ローラは言うのをためらってしまい、思わず視線をそらした。

「いえ……そんなことは……」

「ローラ様、目をそらさないでください。それでは嘘だとバレバレですよ」

(ヴェルデ様にはごまかしがきかないとわかっている。わかってはいるけれど、言ったとしたらきっとまたヴェルデ様を傷つけてしまう。そして、そんなことはないと否定されるのも目に見えているわ)
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