目覚めた眠り姫は目覚めさせてくれた魔術師に恋をする
 ――ヴェルデを開放してあげたほうがいい。



 ベリックから言われたその一言が、ローラの心に重くのしかかる。

 自分はヴェルデを縛りつけているつもりはない。それにヴェルデもそんなことはない、と全力で訴えてくるだろうし、もちろんわかっているつもりだ。だが、それでもローラにはベリックの言葉がまるで呪いのようにまとわりつくのだ。

 口を開き、何かを言おうとするがまた閉じる。そんな仕草を何度もするローラを見て、ヴェルデは眉をしかめて言った。

「ローラ様にとってそんなにも言いづらいことなのですね。でしたら、魔法で強制的に吐かせることもできます。どうしますか?」

 ヴェルデの言葉にローラは驚き目を見張る。

「俺はできればそんなことはしたくありません。ローラ様の意志でローラ様の口からちゃんと聞きたい。そのためならいつまででも待つつもりです」

 ヴェルデの強い思いが感じられ、ローラは胸が苦しくなる。言うべきだ、言うべきなのだとローラは自分に言い聞かせた。ヴェルデはきっと本当にいつまでも待ってくれるだろう。だが、今言わないときっとずるずると先延ばしにしてしまう。そして、先延ばしにすればするほど、ローラは言いずらくなるであろうことをわかっていた。

 ローラはほうっと大きく息を吐く。きゅっとヴェルデの手を握り、ローラは意を決したようにヴェルデを見た。

「オーレアン興は、ヴェルデ様の行いはどうせ私を目覚めさせてしまった後悔と責任からくるものだ、私がヴェルデ様の側にいることでヴェルデ様を縛り付けているのだから早く開放してあげた方がいい、ヴェルデ様のことを思うのであればそれが一番いい方法だ、と」

 ローラの言葉を聞きながら、ヴェルデの顔はどんどん曇っていく。そしてローラの手を握る力も強くなっていた。今すぐにでも否定したくて仕方ないのに、なんとか堪えているのが見てわかるほどだ。

「……ローラ様はそれを聞いて、どう思われたのですか」

「私は……私も、そうかもしれないと思いました。私がいることでヴェルデ様を縛り付けてしまっている。だとしたら、私はヴェルデ様の側にいるべきではない、ヴェルデ様を開放してあげるべきだと」

 震える声で、ローラはひとつひとつ言葉を紡いでいく。それを聞いたヴェルデはうつむき、大きく息を吐いた。

「……してわかってくれないんだ」

 ぼそり、とヴェルデが呟く。

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