目覚めた眠り姫は目覚めさせてくれた魔術師に恋をする
ローラの返事にヴェルデは目を見開いて驚いている。

「エルヴィン殿下とは、その……こういうことはなさらなかったのですか?」

「いえ、エルヴィン様とは、手をつないだこともありませんでした。婚約者でしたので一緒に行動することも多かったですが、いつも私の少し前を歩いている方だったので……」

 首をかしげて質問するヴェルデに、ローラは困ったように答えた。エルヴィンは婚約者であるローラに指はおろか髪一本ですら触れることはなかったのだ。二人の婚約はあくまでも国としての政略的結婚であり、二人とも相手をよく知らぬまま話が進んでいた。

(私はエルヴィン様のことをもっとよく知りたいと思っていたけれど、エルヴィン様はそんな素振りは一切見せなかったものね。それでも、一緒に過ごしていけばきっと少しずつでも分かり合えると思っていたのに……)

 ローラにはそれすらも叶わなかったのだ。当時のことを思い出してローラがひとり苦笑していると、ヴェルデはそんなローラの手を強く握った。

「ローラ様が眠りについてからエルヴィン殿下は当分妃を取らないと言ったらしいとメイナード様から聞いていたので、お二人は仲睦まじい関係なのかと思っていましたが、そうではなかったのですね。でも、そうであれば私としては、……こんなことを言うべきではないのでしょうが、ローラ様とこうやって手を繋いで隣を歩くのが私だけだということがとても嬉しいです」

 心の底から嬉しいという顔をして笑うヴェルデに、ローラは胸がきゅんとなる。

(そ、そんな笑顔を向けられたら、心臓がもたないわ……!それにまたそんな勘違いしそうになるようなことを言うなんて、ヴェルデ様は一体何を考えているのかしら)

 真っ赤になっていくローラの顔を見て、ヴェルデは満足そうに笑いながら、ローラの手を繋いだまま小屋敷へと向かった。

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