目覚めた眠り姫は目覚めさせてくれた魔術師に恋をする
「師匠はこの国であり得ないほどの美貌をもつ魔術師です。その姿を見ただけで大抵の女性は虜になってしまう。師匠は来るもの拒まずな方なので、ローラ様がもし師匠の虜になってしまったらと思うと、耐えられない。だが俺ではきっとあの師匠には敵わないでしょう。ローラ様にかけられた魔法のことばかり考えていましたが、今になってものすごく心配になってしまいました」

 シャツの胸元をぎゅっと掴み、苦しそうにヴェルデが言う。まさか、そんなことを考えていただなんて、驚きのあまりローラは口をぽかんと開けたままだ。

「ええと、すみません、その、お師匠様は、ヴェルデ様よりも美しいのですか?ヴェルデ様は驚くほどの美貌の持ち主です。ヴェルデ様よりも美しい人間なんてこの国にいらっしゃるのですか?」

 混じり気のない純粋な瞳でローラがそう尋ねると、ヴェルデはその言葉にだんだんと顔が赤くなっていく。

「ローラ様、俺のことをそんな風に思ってくださっていたんですか?」

「はい、初めてお会いした時からそう思っていました。なんて美しい方なのだろうと」

 ティアール国の第一王子であるメイナードもかなりの美貌の持ち主だが、それに劣らぬほどの美貌を兼ね備えている。目覚めた時にメイナードとヴェルデという美しすぎる二人の顔があったことは、今考えればかなりの奇跡だったとローラは思った。

 ローラの言葉を聞いて、ヴェルデは真っ赤になった顔を片手で隠すようにして覆う。昨日は随分と妖艶でローラを翻弄するほどだったが、今日は打って変わって随分と可愛らしい。その可愛らしさに、ローラはつい嬉しくなってくすくすと笑ってしまった。

「どうして笑うんですか!」

「す、すみません、ですが、あまりにも可愛くて、つい」

「か、可愛いって……」

< 54 / 112 >

この作品をシェア

pagetop