目覚めた眠り姫は目覚めさせてくれた魔術師に恋をする
 頭上で静かなため息が聞こえた。ヴェルデに抱きしめられるのは初めてではないが、やはり慣れることはできずどうしてもドキドキしてしまう。細く見える体は意外にもしっかりとした体つきで、男らしい。ヴェルデは中世的な顔立ちだがやはり男性なのだと思わさせられて、余計にクラクラしてしまった。

「師匠の所に行くのは俺一人だけにしましょう。ローラ様を連れていくのはやっぱり心配です」

 抱きしめていたローラを静かに解放し、ヴェルデは決心したようにそう言った。

「で、でも私が一緒に行った方が知りたいことについてより詳しく分かるのでしょう?私とヴェルデ様は婚約しています。まさか弟子の婚約者に何かをするようなことはないでしょうし」

「そうですが……いや、あの師匠ならわからないな」

 最後の方はブツブツと独り言のように言っている。話を聞くだけではどうやらとんでもないお方のようだとローラは戸惑ってしまった。

「本当に大丈夫ですか?師匠に惚れてしまうなんてことになったら、俺はあなたを連れて行ったことを後悔しても仕切れません」

「だ、大丈夫です。私はヴェルデ様の婚約者です。あなたとこの国で生きていくと決めたんですから、それを覆すことなど絶対にしません。あなたを裏切るようなことも絶対にしません。あなたに救ってもらったこの命をあなたのために全うすると、あなたの善意に応えると、そう決めたのですから」

「善意に応える……か」

 少し寂しげにヴェルデはつぶやいた。それは本心なのだが、いけないことだっただろうかとローラは不安になる。だが、ヴェルデはすぐにローラの顔を見て微笑んだ。

「わかりました。一緒に行きましょう。何があっても俺はローラ様のそばを離れません。……それに、俺がもっとローラ様の心を掴んで離さないようにすればいいだけだ」

「?」

 最後の言葉はローラには届かないほどの声だったのでローラは聞き返すようにヴェルデを見上げるが、ヴェルデは優しく微笑んで首を振った。

「なんでもありません。それでは、支度を済ませて行きましょう」

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