目覚めた眠り姫は目覚めさせてくれた魔術師に恋をする




「さて、本題に入ろうか。その前に、ローラ様。こうしてまたお会いできたこと嬉しく思います」

 クレイにそう言われて、ローラは前に会ったことがあっただろうかと首を傾げる。何せ百年も眠り続けていたのだ。しかもクレイは隣国の人間、会っていたとしてもほんの僅かな時だろう。

「覚えていらっしゃらないのも無理はありません。そうですね、あなたが眠り続ける二年ほど前、当時まだティアール国とサイレーン国が歩み寄ろうとしていた頃、サイレーン国から第二王子と当時の筆頭魔術師がティアール国を訪れたことがありました。覚えていらっしゃいますか?」

 記憶を辿り、ハッとしてローラはクレイを見た。

「あの時の、筆頭魔術師の……?」

「そうです、あの時は助けていただいてありがとうございました」

 当時、ティアール国とサイレーン国は敵対までとはいかないがあまり仲が良くなく、なんとか国交を深めようと両国の間で歩み寄りが行われていた。その日はティアール国へサイレーン国から第二王子と筆頭魔術師であるクレイが訪れたのだが、第一王子ではなく第二王子が来たことにティアール国の王族たちが不満を述べ険悪な状態になった。

 そんな時、機転を効かせてその場を修復したのがローラだった。

「第一王子は公務で忙しく来れないからと、第二王子だって忙しいであろうにわざわざ時間を設けて馬車で何日もかけて来てくれたのに、そんな人たちに対して文句を言うのはおかしいと、はっきりとおっしゃってくださいました。そもそも招いたのはティアール国で、客人に対してそのような失礼を振る舞うのは国の人間として恥ずべきことだと。静かな口調でおっしゃっていましたが、威厳が感じられその場の誰もが何も言えなかった」

 当時を思い出しているのだろう、クレイはうっとりとした顔で話をする。

「ご自分の立場だって危うくなるかもしれないのに、あの場で正しいことを臆することなく言えるのはとても立派だと思いました。しかも、その後の王族へのフォローも見事でした。機嫌を損ねたままにせず、かと言って大袈裟に持ち上げるでもない。自然にその場を良い空気にして、その後は滞りなく会食が行わました。本当に見事でしたよ。まぁ、その一年後には結局両国は敵対してしまうのですが……」

 だが、現代は両国は敵対することなく同盟を結んでいる。この事実はローラの心を軽くさせた。

「あなたを見た時、あなたが纏う美しい純粋さに心を奪われました。そこまで真っ直ぐで素直な心を持つ人間がこの世に存在すると言うことに驚きましたし、あなたのような人こそ幸せになるべきだと思ったのです」

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