目覚めた眠り姫は目覚めさせてくれた魔術師に恋をする

16 事実

「ローラ様、あなたへ殺意を向けていた相手に、本当はあなたも気づいていたのではありませんか」

 クレイの言葉に、ローラはまた全身から血の気が退いていくのを感じた。ヴェルデのお陰で落ち着いたはずの心臓はまた大きく動き出し、呼吸も苦しくなる。当時、第一王子の婚約者である自分をよく思っていない人間は沢山いた。だが、自分へ殺意を向けていた相手は恐らくたった一人。

「……ローラ様、大丈夫ですか?ローラ様、ローラ様!」

 呼吸がうまくできない。心臓は激しく動いてうるさいし、胸は苦しくてしかたがない。目の前もなぜか歪んで見えている。そして、ついに目の前が真っ暗になった。

 意識を失い座っていたソファから崩れ落ちそうになるローラを、既のところでヴェルデが受け止めた。

「ローラ様……」

「ショックで気を失っているようだね。すまない、こんなにも純粋な人に、あんな言い方をすべきではなかった」

「……どういうことですか」

 クレイに怒るのは筋違いだとはわかっている。それでも、どうしようもない苛立ちで厳しい顔になってしまう。ヴェルデがクレイを睨むと、クレイは静かに立ち上がった。

「まずはローラ様を安静な場所で寝かせてあげよう。話はそれからだ」

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