目覚めた眠り姫は目覚めさせてくれた魔術師に恋をする

21 我慢

 洞窟から帰って来ると、クレイが夕飯の支度をしていた。

「お帰りなさい。もうすぐ夕飯が出来上がりますから、それまでお風呂にでも入ってきてください。ひとりずつでも、二人一緒でも構いませんよ」

「師匠!」

 机の上には、美味しそうな料理がたくさん並んでいる。

「これを、クレイ様が一人で?」

「ずっと一人身なので必然的に料理の腕前は上がります。それにずいぶんと長生きしていますからね」

「その間にもいろいろな女性と親密な関係になって、料理もその人たちから教わったんでしょう。一体レパートリーがいくつあるのか」

 ふふふ、と笑うクレイに、ヴェルデが野次を飛ばす。一体クレイの実年齢はいくつなのだろうとローラはクレイを不思議そうに見つめていた。





 クレイの作った料理はどれもこれも美味しかった。食後のハーブティーを飲みながら、クレイが静かに話し始める。

「ローラ様、歴史書などでエルヴィン殿下のその後については把握なさっていますか?」

 突然、過去の婚約者の名前が出てきて、ローラはびくりと肩を揺らす。

「……ほんの少しだけ。読んでいるうちに気がめいってしまい、あまりちゃんとは読めていません。ですが、ティアール国が現在も問題なく繁栄しているのは、エルヴィン様をはじめ代々の王家の方々がきちんと国を治めたからなのだろうと思っていました」

 ローラの返答にクレイは顎に手を添えてふむ、とつぶやく。

「確かにティアール国は繁栄しています。ですがそれはエルヴィン殿下のおかげではなく、当時の第二王子であるゲイン様のおかげです」

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