目覚めた眠り姫は目覚めさせてくれた魔術師に恋をする

22 思い出

 朝になった。クレイに見送られながら、ローラとヴェルデはクレイの屋敷を後にする。

「師匠、いろいろとありがとうございました」

「いや、こちらこそありがとう。ヴェルデがローラ様を目覚めさせてくれたと知ることができて、私もなんだかホッとしたよ。……ローラ様」

 クレイがローラに声をかける。

「あなたが、私の弟子であるヴェルデと共にこの世界を生きていこうと思えるようになって本当に良かったと思っています。あなたには幸せでいてほしいと、百年前のあの日からずっと思っていました。……今後、何があってもヴェルデのことを信じてあげてください。ヴェルデほどあなたを思っている人間はいないでしょうから。そして、あなた自身の気持ちも尊重してあげてください。あなたの人生はあなたのためのものです、それをどうか忘れずに」

 クレイはジッと優しく、深い眼差しをローラに向ける。その瞳はこれからの未来の何かを垣間見ているようだが、ローラにはそれが何なのかはわからなかった。

「ありがとうございます。クレイ様が私のためを思ってかけてくださった魔法で、私は辛い現実から逃れることができました。そして、ヴェルデ様と出会うことができました。私の幸せの一部を作り出してくださったのはまぎれもなくクレイ様です。本当にありがとうございます」

 そう言って静かにお辞儀をするローラを、クレイもヴェルデも感心した顔で見つめていた。

「あなたは、本当にどこまでも純粋なのですね。私はあなたに恨み言のひとつやふたつ言われてもおかしくないと思っていました。でもあなたはそんなことを言わず、むしろお礼をするだなんて」

「……恨み言は、ヴェルデ様がティアール国で全て受け止めてくださいました。言うべきことではなかったのに、それでもこんな私を受け止めてくださったんです。それだけで、私はもう十分救われたのだと思います」

 少し遠慮がちに微笑むローラを、ヴェルデは頬を赤らめながら愛おしそうに見つめている。そして、クレイはそんなヴェルデを見て苦笑し、ローラに視線を移して少しだけ寂し気に微笑んだ。

「あなたには本当にかないませんね。……ヴェルデが少しうらやましいです」




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