目覚めた眠り姫は目覚めさせてくれた魔術師に恋をする




  ローラとヴェルデを乗せた馬車は、クレイの屋敷を離れていく。ヴェルデは馬車の窓から外を見て微笑んだ。

「行きの馬車でも思っていましたが、まさか、ローラ様とこの景色を一緒に見ることができるだなんて思いもしませんでした」

 クレイの屋敷、そしてその周辺はヴェルデにとっては故郷のようなものだ。ローラもヴェルデの視線につられて窓の外を眺める。

(なんて自然豊かで美しいのかしら。それに、ヴェルデ様はとっても嬉しそうで私まで嬉しくなってしまう。……ティアール国にいたころはエルヴィン様と馬車に乗って国内をまわったこともあったけれど、馬車の中でもエルヴィン様はいつもつまらなそうだった)

 ヴェルデは視線を窓の外とローラと忙しそうに移しては嬉しそうに話をしている。ふとエルヴィンのことを思い出して心が陰りそうになったが、ヴェルデを見ているとそんな陰りもすぐに晴れてしまう。

「ローラ様?どうかしましたか?」

 ふと、ローラの様子に気が付いてヴェルデが心配そうに尋ねた。ヴェルデはいつだってローラのほんの些細な変化にも気が付くのだ。

「いえ、ヴェルデ様が嬉しそうなので、私まで嬉しくなると思って」

 静かに微笑みながらそう言うと、ヴェルデはジッとローラを見る。

「……でも、それだけではないのですよね?」


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