目覚めた眠り姫は目覚めさせてくれた魔術師に恋をする
 きっと、この人には嘘はつけないのだろうなとローラは軽く苦笑して、窓の外を眺めた。

「昔のことをふと思い出したのです」

「……エルヴィン殿下のことですか?」

「そう、ですね。エルヴィン様ともこうして二人で馬車に乗ってティアール国を旅したことがありますが、いつもエルヴィン様はつまらなそうでした。そのことを思い出して少し気分が落ち込みそうになったのですが、ヴェルデ様を見ているとそんな気持ちもいつの間にか無くなっているのです。不思議ですね」

 ふわっと嬉しそうに笑うローラに、ヴェルデは胸がぎゅっとなった。

「あなたの心の陰りを消すことができたのならよかったです。……なんなら、エルヴィン殿下との思い出全てを消し去ってしまいたいくらいなのに」

 最後の方はローラに聞こえないほどの小声だったので、ローラはきょとんとしている。

「いえ、あなたの中にできる思い出は全て俺で構成されればいいのにと思っただけです。それに、これからそうしていきますから。一緒にたくさん思い出を作っていきましょう」

 ローラの両手を優しく掴んでヴェルデは微笑む。その微笑があまりにも素敵で、ローラはくらくらしてしまった。

(ヴェルデ様はこんな美しいお顔でさらっとそんなキザなことを言ってのけてしまうのだから、油断ならないわ……!)

< 85 / 112 >

この作品をシェア

pagetop