目覚めた眠り姫は目覚めさせてくれた魔術師に恋をする
 ね?と微笑んでベリックは片手を差し出した。だが、ローラは首を振る。

「お断りします。私はヴェルデ様に救われました。私にできることはないかもしれませんが、それでもヴェルデ様の善意に残りの人生をかけてでもお答えしたいと思っています。ですから、あなたとティアール国へ行くことはできません」

「善意ねぇ。そんなものすぐに無くなるだろうに。考えてもみろ、あなたは百年も眠っていたんだ。百年前の時代遅れの女などすぐに飽きる、人の心は変わるものだ。今はあなたに対して好意的かもしれないが、すぐに飽きて捨てられるだけだぞ。それに、そもそもそれは善意なのか?」

 突然口調が変わり、表情も冷ややかなものになる。そんなベリックの言葉に、ローラは一瞬ビクッと肩を震わせる。その一瞬を、ベリックは見逃さなかった。

「どうせあなたを目覚めさせてしまった後悔と責任からくるものだろう。あの男は償いたいだけだ。あなたはあの男を縛り付けているんだぞ。そんなものから早くあの男を開放してあげた方がいい、あの男のことを思うのであれば、それが一番いい方法なのではないのか?」

 ヴェルデを開放してあげたほうがいい。その言葉を聞いてローラは固まってしまう。そして茫然としたローラの前にいつの間にかベリックがいて、ローラの肩に手を置き、ローラの髪を静かに指ですいてから頬に手を滑らせた。

「それにしても噂通り美しい方だ。これで百年も経っているなんて信じられない。ふむ、そうだな……あの男をあきらめさせるために、既成事実を作ってしまうのも手か。他の男の手がついた女など、あの筆頭魔術師のことだ、気持ち悪がるだろうな」
< 94 / 112 >

この作品をシェア

pagetop