目覚めた眠り姫は目覚めさせてくれた魔術師に恋をする
 メイナードがそう言うと、ベリックは両目を見開いて大声で宣った。

「だから生ぬるいと言ったのです!同盟を結んだとていつ相手が裏切るかわからないのですよ!だったら力づくで先にねじ伏せてしまえば良いのです!」

「ずいぶんと身勝手な考え方だな」

 ベリックの言葉にガレスが顔を顰めると、メイナードがベリックを睨みつけた。

「あなたの行いは国の意向に反する。処罰なければならない」

「ほぉ?私を捕まえますか?できるわけがない!ご覧なさい、今私が手を動かせばローラ様の首にこの刃が一突きです。あなたたちが何かしようとしたら、驚いてうっかりローラ様の首に剣が刺さってしまうかもしれませんねぇ」

 ベリックが短剣の刃先をさらにローラの首元へ近づける。ローラは一瞬目をつぶったが、すぐに開いてしっかりと前を見つめた。

「こんな時でも動じないとはさすがは妃殿下となるはずだった方ですね。ますます欲しくなりましたよ」

 にやりと汚らしい笑みを浮かべながらローラを見下ろすベリック。

「オーレアン卿、いい加減にしなさい。あなたがローラ様をどうこうできるわけがないとなぜ気が付かないのか」

 メイナードがそう言った瞬間、ベリックの持っていた短剣がドロリ、と溶け出した。刃先はすでに無く、溶け出した短剣は泥のようにボタリボタリと地面へ落ちていく。

「はっ?な、なんだ?何が起こっている」

 動揺したベリックがほんの一瞬ローラの肩を掴んだ力を緩めた時、ローラはベリックに体当たりをした。

「っ!貴様!」

 体当たりしたローラはベリックから離れ、ヴェルデの元へ駆け出す。そのローラを追いかけようとベリックが手を伸ばすが、その手が突然焦げだした。

< 97 / 112 >

この作品をシェア

pagetop