アイドル様は天然キラー

鮭のムニエルとトマトときゅうりのマリネを食べ終え、使った食器を洗っている時、NAKIが私の隣に来た。



「ひょわぁ!?どっ、どうしたんですか!?」



うちのキッチンは狭い、だから、必然的にNAKIと至近距離になってしまう。



あまりの距離の近さに、壁に張り付くようにしてNAKIがら離れたあと、隣に立ったNAKIのことを見る。



遠ざかった私のことを見て首を傾げていた。



待って可愛い!!



「お皿、洗うの手伝おうかと思って」



「い、いえ!!大丈夫ですので!!」



壁に背中をつけながらブンブンと手を振る。



アイドルに洗い物なんて手が荒れる仕事させる訳にはいかない。



NAKIの手が荒れてるなんてファンの皆様に知られたら、私は確実に殺されてしまう。



「だって、ご飯作ってもらったんだもん、皿洗いぐらい手伝わせて。・・・ね?」



「ぐぅぅっ・・・お願いしますぅ・・・!!」



優しく微笑みかけながら首を傾げるNAKIに、思わず返事をしてしまう。



そんな可愛い反応されたら受け入れざるを得ないじゃんかぁ〜!!



「うん、わかった」



そう言って、洗剤のついた食器を水で洗い流し始めるNAKI。



私も、NAKIの隣に立って食器を洗い始めた。



だけど、シンクの幅が狭いせいで少し動いただけでも体が触れてしまい、何度もNAKIの腕がぶつかったり、私の腕をぶつけてしまっていた。



「ひぎゃあ・・・!?な、何度もすみません!!」



「ううん、気にしないで」



そう言って気にせずに洗い物を水で流していくNAKI。



気にするなと言われても、推しに何度もぶつかったりして気にしないでいられる人間なんて存在しないって・・・!!



握手会以外で推しに触れてるんだぞ!?



そんなの気にするに決まってんじゃん!!



「洗ったお皿拭いた方がいい?」



「へ!?・・・あ、いえ・・・水切り用のカゴがあるのでそこに置いててもらえれば大丈夫です」



「わかった」



全ての食器を洗い終え、手をタオルで拭いている時、NAKIが食器を拭く用のタオルを手にしながら聞いてくる。



初めのうちは拭いてたけど、自然乾燥でも乾くというのを知ってからはほとんど使っていない。



なんなら片付けようかなと思ってたぐらいだ。



NAKIは手にしていたタオルを元あった場所に戻し、タオルで自分の手を拭く。



「そうだ、手荒れちゃうと大変なんでハンドクリーム使ってください」



「え、この程度じゃ荒れないよ?」



「念の為です」



台所からリビングに戻る前に、NAKIにハンドクリームを渡す。



初めこそ必要ないと言わんばかりの反応だったNAKIも私の後押しで使うことを決めたようだ。



ハンドクリームのフタを外し、手にクリームを出す。



その時──



「あ」



思いのほか勢いよく出たのか、かなりの量のクリームを出してしまったNAKI。



ハンドクリームを持った状態で手のひらに出た大量のクリームを身動きせずに見つめる。



「・・・凛、これ多いよね?」



「確実に多いですね」



恐る恐るといったように私の方に視線を向けるNAKI。



そんな彼に、困りながら答える。



大体2回分ぐらいでちゃってるよね、コレ。



そのまま手に塗り込むけど、かなりベタベタしているように見える。



もったいないけど、タオルかなんかで拭き取るしかないかな。



「凛、手出して。おすそわけする」



「はい!?」



そう言って手を差し出してくるNAKI。



その瞬間、私の思考は停止した。



おすそわけする・・・!?



だって、今クリームはNAKIの手に塗られている。



つまり、NAKIの手に触れろということ・・・?



握手会でもないのに・・・?



待ってそんなハードル高いことできないよ!?



「ほら。手、出して」



「ひ、ひゃい・・・」



おずおずと両手を差し出すと私の手を包み込むように握り、手についたクリームを明け渡してくる。



おっ・・・推しが・・・私の手を・・・自ら・・・!?



キャパオーバーになりながらも、NAKIからクリームを受け取った。



「ありがと」



「い・・・いえ・・・」



握られていた手をアワアワと見つめながら何とか言葉を紡ぐ。



NAKIがやること全て過度なファンサでしかないな・・・。

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