アイドル様は天然キラー
オタクなら確実にいる存在──推し。
私も例に漏れずに推しがいた。
人気アイドルグループ、“バイオレットフィズ”のNAKIという人物だ。
無口だけど礼儀正しくて、流し目がとても色気がある。
男の人に言うのが正しいのかは分からないけど、クールビューティーな人。
ライブやYouTube配信をしているアイドルだ。
私はそんな彼に少しでも贅沢な生活をして欲しくてスパチャをしたりライブに参戦したりしていた。
そのために今日もアルバイトに勤しんでいる。
普通ならめんどくさい、と思ってしまう仕事も推しの為と思うと途端にやる気に満ち溢れてくるものだ。
「それじゃ、お先に失礼しまーす」
「おう、お疲れー」
アルバイトの時間が終わり、裏で着替えて退勤する。
バイト先を出て自宅まで歩いている時、後ろから誰かにつけられている感覚があった。
後ろを振り返ってみると、ニット帽を深く被ってサングラスとマスクをした人が、あからさまに電柱に隠れたのが見えた。
あの人・・・さっきコンビニに来てレジにご飯系のもの持ってきたのに何も買わずに出てった人じゃん。
なんで私の事付けてきてるの?
まぁ、まだバイト先から出てちょっとしか経ってないし・・・気のせいかな。
そんなことを考えながら前を向いて気にせず歩いてたけど、家に近付いてもなお私の後ろを歩いていた。
さすがにもうすぐ家に着くのに後ろにいられたら嫌なんだけど・・・。
そう思い、勢いよく振り返ってその人の元へ走っていく。
「いい加減にして!!ストーカー!!」
「ちょ、ちょっと待って・・・!!違うから・・・!」
後ろを付けていたストーカーに掴みかかり、押し倒してその上に乗る。
ジタバタと暴れるストーカーを押さえつけた。
その時に、サングラスが外れ遠くへ転がっていく。
その間に、警察に通報するためにスマホを取り出す。
「待って・・・!誤解だから・・・!」
「誤解なわけないでしょ!?これから警察に突き出して──」
私の下で暴れるストーカーを睨みつけた時、ストーカーの目元が私の推しのNAKIにそっくりなことに気が付いた。
「・・・え?」
「知ってる子を見つけたから、ちょっとお願いをしたかっただけなんだ。別にストーカーじゃないから」
さっきまではよく分からなかったけど、この人の声、推しの声とそっくりだ。
「俺のこと、知ってるはずだけど・・・これでわかる?」
そう言って、マスクと帽子を外すストーカー。
その顔は、推しであるNAKIそのものだった。
「ヒョァァッ・・・!?NAKIッ!?」
「ようやく理解してくれた?」
体を押さえていた手を引っ込め、彼の体の上から飛び降りた。
ゆっくりと起き上がり、服についた汚れを払っているNAKIを見て混乱する。
なんでこんな所にNAKIが・・・!?
しかも、私NAKIのこと誤解だとはいえ押し倒してその上に乗っちゃった!!
やばい・・・穴があったら埋まりたい・・・!!
「握手会の時、来てたよね?それで、ちょっとお願いをしたいなって思って・・・」
罪悪感に押しつぶされそうになっていると、NAKIが口を開いた。
うっわ!!しかも私推しに認知されてる!?
ちょっと待って!!さすがに死んでしまう!!
「あのさ・・・今日、泊めて欲しいんだけど」
「・・・はい?」