アイドル様は天然キラー
第3章 ファンサ
NAKIと共に暮らすようになってから1ヶ月──
バイオレットフィズ公式から1ヶ月後に迫ったライブ公演の応募フォームが開かれた。
リビングのソファーに腰掛けながら、ウキウキ気分で公演の応募を始める。
「あれ?凛、今回の公演来るの?」
「へぁっ!?」
私の後ろを通ろうとしたNAKIが、ソファーを挟んだ所から私のスマホをのぞきこんで来る。
NAKIの言葉に後ろを振り返ると、思った以上に私との距離が近く叫び声を上げてしまう。
だけど叫び声をあげられるのに慣れたのか、特に気にした様子もないNAKIを見て、落ち着きを取り戻す。
「あ・・・はい。チケットが取れないとかってならない限り・・・」
「じゃあ、専用チケットあげようか?いつもお世話になってるし」
ソファーの背もたれ部分に肘をつき、首を傾げながら私に訪ねてくるNAKI。
せ、専用チケット!?
それって、ライブ関係者が座る特等席だよね!?
「い、いえ!!大丈夫です!!ちゃんと勝ち取ります!!それがオタクの義務なので!!」
「・・・そっか。じゃあ、落選したらあげるね」
「いや!!落選してもお譲りの枠探すので大丈夫です!!チケットだって安くないんですから受け取れません!!」
提案してくれたNAKIに対して、首と体の前に出した両手をブンブンと左右に振りながらキッパリと断る。
ただの一般人のオタクがそんな豪華なチケットを受け取っていいはずがない。
それに、Twitterで繋がってるバイオレットフィズ推しの子達に“なんで凛だけ特等席で見てるの!?”なんて言われたら誤魔化せないし。
「・・・ふふっ、強情だなぁ」
「ふぐっ・・・!!推しの微笑みっ!!尊い!!」
頑なに頷かない私の姿が面白かったのか、優しく微笑むNAKI。
それを至近距離で目の当たりにした私は、思わず感情を口にしながら胸を押える。
無理!!こんな至近距離でファンサ受けてるようなもんだよこんなの!!
「出た、オタク発作」
「仕方ないじゃないですかぁ・・・!!こんな近くでファンサ受けてるんですからぁ!!」
尊さのあまり顔を覆いながら叫びに近い声で必死に訴える。
クールで売ってるNAKIは滅多にファンサをしないから、ちょっとの行動がファンサになってしまうのを理解してないのかな!?この子!!
「別にファンサのつもりじゃないんだけど・・・」
「私からしたらファンサなんです!!NAKIはファンサをしないで有名だから、一挙手一投足がファンサな訳なんです!!そんな人からお出しされる微笑みなんか致死量級のファンサなんですよっ!!」
「・・・ふぅん、そっか」
少し困り気味のNAKIに、顔を覆っていた手をソファーに起き、食い気味に熱弁する。
その言葉を聞いて、NAKIは少し考え込むような姿を見せた。
「?NAKI?どうしました?」
「あ、またNAKIって言った。今は“奈央樹”だよ」
いつものようにNAKIと呼んでしまった時、NAKIがムスッとしながら訂正されてしまう。
ここ1ヶ月でも何回も呼び方について注意されたし・・・さすがに変えないとか。
「あっ、すみません。・・・じゃあ、奈央樹さん?」
「さん付けはいや。俺の方が年下なんだから敬語もいらない」
「じゃあ・・・奈央樹くん」
「うん、それがいい。あと、別になんでもないよ。ちょっと考え事をしてただけだから」
私の言葉に満足そうにした後、なんでもないと答えるNAKI──改め、奈央樹くん。
「考え事?」
「うん。でも、大したことじゃないよ」
「?」
奈央樹くんの様子に、ハテナが浮かぶ。
大したことじゃないなら、なんで考え事なんか・・・。
「ふふっ。当落、早くわかるといいね」
そう言って部屋に戻っていく奈央樹くんに、私はハテナを浮かべながら見送った。