アイドル様は天然キラー
キッチンにある冷蔵庫からトリュフの入った箱を手に取り、奈央樹くんの所へ向かう。
「はい、これ」
「ありがと。・・・トリュフ?」
「うん、NAKIはトリュフ好きだから作ってみた。味はあんまり自信ないけど・・・」
受け取るなり箱を開けて中身を確認する奈央樹くん。
そして、1粒手に取り、口の中へ運ぶ。
「!・・・美味しい」
「!!」
1口で食べきった奈央樹くんは、これでもかというぐらい幸せそうに微笑んだ。
その笑顔を見て、少しだけドキッと心臓が高鳴ったような気がする。
「・・・そう、良かった」
どうしたんだろう、急に。
そんなことを考えながら奈央樹くんから顔を背け、ハテナを浮かべる。
「凛の手作りは食べれる」
「え?なんで?」
トリュフを食べながらポツリと言い出す奈央樹くんの方を見て問いかける。
手作り苦手・・・とか?
だとしたら、私が作った料理食べれないだろうし・・・。
「他の子、チョコの中に髪の毛とか血とか入れるから・・・」
「おぉう・・・ブラックなことを知ってしまったぁ・・・」
奈央樹くん、ナチュラルに重いことぶっ込んできたな。
そういう発想はなかった。
それで、食べれない、と。
そういうことなら、手作りやめといた方が良かったかな?
「だけど、凛はそんな事しないってわかってるから・・・平気」
パクっとトリュフを食べながら優しげに微笑む奈央樹くん。
その言葉がちょっとだけ・・・ちょっとだけ、嬉しい。
「そっか・・・アイドルも大変なんだね」
「一定数いるってだけだけどね。KAZUは手作り一切受け付けてないみたいだけど」
「あぁ・・・手作りした子がKAZUが受け付けてないってTwitterで嘆いてたっけ・・・」
「対策しないと髪の毛とか血とか入ったチョコ食べることになるから。市販の物に入れてくる子もいるから開封された跡があるのは捨てて貰ってる」
アイドルの現実を目の当たりにして、背筋に寒気が走る。
軽率に手作りしちゃったけど、そんなふうに気を付けなきゃいけないなんて知らなかった。
「人気者は大変だぁ・・・。チョコ1つでそんなに警戒しなきゃいけないんだね・・・キラキラしてるだけじゃないんだ・・・」
「皆、凛みたいな人だといいのにって思う。そうすれば警戒せずにトリュフ食べれるのに」
苦笑しながら大きな箱の中にあるチョコを見る。
「それは嬉しいけど、ちょっとした事で叫び出すオタクだらけになったら会場うるさいって・・・」
「それもそうだね」
「否定はしないのね」
トリュフを食べながら肯定してくる奈央樹くんに思わず突っ込む。
そこは“そんなことないよ”っていうところじゃん。
「だって、なにかあるとすぐ叫ぶし・・・配信してる時も部屋まで聞こえてくるもん」
「あっ!!否定ができない!!だって推しなんだもん・・・!!可愛いんだもん・・・!!」
顔を覆いながら感情のまま叫ぶ。
だって可愛い姿みたら発狂しちゃうもん・・・!!
「・・・可愛い・・・ね・・・」
手にしたトリュフを見つめながら、ボソッと呟く奈央樹くん。
その言葉はまたしても聞こえなかった。
「ん?どうしたの?」
「・・・なんでもない」
そっぽを向きながらトリュフを食べる奈央樹くん。
そんな彼の姿に、私はハテナを浮かべた。