アイドル様は天然キラー
翌日──
昨日に引き続き、バイトに入る。
しかも、佐藤さんも一緒だ。
キャンディーをもらった件から少しだけ気まずい感じがしている。
だけど、佐藤さんはそんなこと関係ないと言わんばかりに声をかけてきていた。
いわゆる、アプローチというものだろうか。
私としてはバイト先の方って認識しかしてないんだけど・・・。
「小豆沢さん、今日ってこの後ひま?良かったらご飯でも行かない?」
「え?えーっと・・・」
こんな感じでいつもご飯だったりデートのお誘いをされたりしている。
何度も断るのが申し訳なくて、言い淀んでしまう。
そんな中、お客さんが自動ドアを開けて入ってきた。
「あ、いらっしゃいま──奈央樹くん・・・!?」
中に入ってきたのは、奈央樹くんだった。
どっ、どうして奈央樹くんが・・・!?
しかも、変装してないし!!
思わず声に出してしまうと、奈央樹くんは少し険しい顔をした後に、私の事を見て手を振りながら店内へと入ってくる。
「・・・知り合い?」
「知り合いっていうかなんて言うか・・・」
佐藤さんに聞かれてどう答えていいか戸惑う。
さすがに“同居してます”なんて言えないし・・・。
「・・・まぁいいけど。それより、彼は下の名前で呼んでるんだね」
「え?まぁ・・・そう呼んでって言われてるので・・・」
最近は奈央樹くん呼びにだいぶ慣れたけど、“NAKI”呼びするとガン無視されてたことを思い出す。
“今はNAKIじゃないから”って理由で。
苗字呼びしたこともあったけど、それも却下されちゃったし・・・。
「ふぅん・・・俺のことは名前で呼んでくれないの?」
「え?」
首を傾げながら妖艶な笑みを浮かべる佐藤さん。
呼んでくれないのって・・・別に名前を呼ぶ程親しい間柄って訳でもないのに・・・。
「俺も、下の名前で呼んで欲しいな。あの子だけ名前呼びなんて、ちょっと妬けちゃう」
「妬けちゃうって言ったって──」
「ね、ダメ?」
甘えるように首を傾げながら私に近付いてくる佐藤さんに、思わず後ずさる。
佐藤さん、ホワイトデーにキャンディーをもらってからというもの、距離が近いことが多くなってきた。
困ったな・・・。
「凛、レジお願い」
「あ、うん」
どうしようかと思っていた時、奈央樹くんがタイミングよくレジへと並んだ。
助かった・・・と安堵しながら、商品をスキャンしていく。
その間、奈央樹くんは佐藤さんの方を向いているようだった。
「・・・凛、今日何時に上がる?」
「え?3時までだけど・・・」
視線を私の方に向けながら、何時に上がるか聞いてくる奈央樹くん。
あと10分もしないうちに上がれるだろう。
「じゃあ、待ってる。家帰ったら一緒にドラマ見よ」
「え・・・うん。わかった」
そう言って買った商品をバックに入れ、お店を出ていく奈央樹くん。
しかもウォーターサーバーが常備されてるはずなのに、水を買ってた。
買わなくても別に良かったのに・・・。
そんなことを思いながら奈央樹くんを見送ると、隣にいた佐藤さんがあからさまにテンションが下がっていた。
「小豆沢さん、彼氏いるなら言ってよね。俺、本気だったのに・・・」
「へ?いや、奈央樹くんは彼氏じゃ・・・」
「嘘つかなくていいって。あんだけ俺に牽制してくるのに違うは通用しないから」
牽制・・・?
なんの事だ?
「あーぁ・・・玉砕かぁ〜・・・俺、自分で言うのもアレだけど結構スペック高いのにな〜」
そう言って、店の裏に行って作業を始める佐藤さん。
私は一体どういうことかわからずハテナを浮かべていた。