アイドル様は天然キラー
「あ・・・あの・・・!!奈央樹くん・・・!!」
「ん、なに?」
配信を止め、一息つく奈央樹くんに意を決して声をかける。
配信の道具を片付けながら私の方に視線を向ける奈央樹くんに、緊張からかドキドキと心臓が高鳴る。
「あの・・・あのね・・・!私・・・!」
覚悟を決めたはずなのに、言い淀んでしまう。
ちゃんと伝えなきゃ・・・奈央樹くんが好きだって・・・!!
「うん、なに?」
片付ける手を止め、私の方に近寄りながら急かすことなく私の話を聞こうとしてくれる奈央樹くん。
今すぐ伝えなきゃ・・・伝えなきゃ・・・!!
「えっと・・・だから・・・!!」
「うん」
「その・・・えっと・・・奈央樹くんのことが・・・!」
“奈央樹くんのことが好き”
前までなら簡単に言えた単語のはずなのに、肝心のところが言えない。
「俺のことが?」
「す・・・すっ・・・!!」
好き──たった2文字の言葉がつっかかって出てこない。
こんなに自分の想いを伝えることって難しいんだ。
もどかしい思いをしながらも、奈央樹くんのことを見つめながら言葉を振り絞ろうとする。
だけど、私の口から出てくることはなく、代わりに目から涙が溢れてきた。
「・・・凛?」
「・・・言えない・・・!言えないよ・・・!!だって、これを言っちゃったら・・・!!」
緊張、動揺、不安・・・全ての感情がグチャグチャになり、ボロボロと涙がこぼれる。
この関係が変わってしまう、アイドルとオタクではない、違う関係になってしまう。
始まりがあれば、終わりがある。
私がこの想いを伝えて関係が変わって、もし仮に恋人関係になったとして・・・終わりがあるかと思うと、恐怖が私を支配した。
「・・・・・・凛」
「な──んっ・・・」
私のことを見つめていた奈央樹くんは、優しく私の名前を呼んだあと、触れるだけのキスをしてくる。
突然のことに、涙が一瞬だけ止まった。
「大丈夫だよ、凛。泣かないで」
「でも──んっ」
私が言葉を言いかけた時、再びキスを落とされる。
そして、私の体を正面から包み込むように抱き締めてきた。
「大丈夫、落ち着いて。深呼吸しよ?」
トン、トン、と背中を優しく叩かれ、深呼吸するように促される。
しゃくりあげながら、目を閉じてなんとか深呼吸をし始めた。
奈央樹くん・・・いい匂い・・・。
奈央樹くんの匂いと温もりで少しだけどぐちゃぐちゃになった感情がスっと落ち着いてくる。
「・・・奈央樹くん・・・」
「ん?なに?」
「・・・好きです・・・」
さっきまで出てこなかったのが嘘かのように、スルッと言葉が出てくる。
その言葉を聞いた奈央樹くんはピクっと反応をして、強く私のことを抱き締めた。
「・・・ありがと、凛・・・。俺と、付き合ってくれる?」
「・・・はい・・・喜んで・・・」
奈央樹くんの言葉に、2つ返事で答える。
不安が無くなったわけじゃないけど・・・今は、この幸せを噛み締めておくことにした。