ロマンスに心酔



「⋯⋯電話、初めてですね。何かありましたか?」

『ああ、別に。声聞きたくなっただけ』

「⋯⋯っ、そ、ですか」

『⋯⋯ふ』


言葉につまったのが電話越しでもわかったのか、かすかな笑い声が聞こえる。

こんな些細なことで体が熱くなるんだから、もうどうしようもない。


『⋯⋯なあ、あしたの夜ひま?』

「へっ、えと、あ、あいてます、よ」

『じゃ、一緒に帰ろ』

「えっ、いいんですか!?」

『ふ、うん。久しぶりに会いたい』

「⋯⋯っあ、う、⋯⋯はい」

『ふは。顔見たいなー』


ぜったいにやだ。
頬が熱くて仕方がない。

手のひらでぱたぱたと仰ぎながら、水を一口飲む。

ふう、とひとつ深呼吸をした。


「⋯⋯あの、た、たのしみに、してます」

『ん、おれも。定時で上がれるように頑張るわ』

「わたしも頑張ります」

『無理せずにな』

「はい、無理せず」

『ん。じゃあ、またあした』

「はい。おやすみなさい」

『おやすみ』


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