ロマンスに心酔
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青葉から連絡をもらったあと、もう一度周囲を確認してから、駅に向かう。
駅の近くまでくると、駅前に見覚えのある姿がまだあった。
「(⋯⋯まだいる)」
すぐそばのコンビニの前でいったん足を止め、しばらく様子を伺う。
そいつは、片手にスマホを持ち、青葉の家がある方向を見つめながら一歩も動かない。
「(⋯⋯仕掛けるか)」
コンビニから離れ、わざとそいつの視界に入るように歩みを進めたあと、さも偶然かのように声をかけた。
「あれ、田中さん?おつかれさまです。こんなとこで何してるんすか?」
「うおっ、あ、ああ、前橋くん。ちょっと、待ち合わせを、しててね⋯⋯」
「え、ここでですか?会社の最寄りじゃなくて?」
「ああ、いや、ちょっと事情が⋯⋯。そういう前橋くんは、なぜここに?」
「僕すか?彼女と一緒に帰ってて、送ってきたところです」
「か、彼女⋯⋯」
「あ、すみません、興味ないですよね」
「いや⋯⋯」
「⋯⋯じゃ、お先に失礼しますね」
「あ、ああ、おつかれ」
「おつかれさまです」
───これは、黒だろ。
田中さん。人事部のドン。
青葉とのつながりはわからんが、人事部なのでどこかしらで接点はあるだろう。
今朝、会社の最寄り駅で立ち止まり、誰かを探すような素振りを見せる田中さんを見つけ、ん?と思っていると、青葉の姿を捉えた途端歩き出したので、怪しいなと目をつけていた。
人事部は部署からエントランスが見える位置にあるので、それで青葉の帰宅を確認しているのだろう。
きょうも、エントランスを出るときは姿が見えなかったが、駅のホームで電車を待っているときには列に並んでいた。
「(さて、どうしようか⋯⋯)」
電車に乗りながら考える。
あのかんじだと、直接何かをするというよりも、影で陰湿な嫌がらせをしそうなタイプな気がする。
「(はやめにガツンと制裁したほうがいいよな)」
綿密な作戦を練ってすぐ実行しないと、なんて考えながら帰路をたどった。
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