ロマンスに心酔



「おお、青葉さん、お待たせ」


「田中さん、おつかれさまです。きょうはお時間いただきありがとうございます」


「いやいや、礼儀正しいねえ。ま、座りましょうや」


「失礼いたします」


予定時刻ちょうどに田中さんは会議室に現れた。

向かい合うようにして座り、いよいよ面談が始まった。



違和感を覚えたのは、始まって20分を過ぎた頃。

今年からひとり暮らしを始めたことについて聞かれ、通勤の負担や仕事のやりにくさなど、去年までと変わったことはないか、という問いがスタートだったと思う。


「最寄り駅あそこでしょ?ここから近いし、いいとこ住んだねえ」


「あはは、ありがとうございます」


「アパートも駅から近くてセキュリティしっかりしてるし、女性には持ってこいだねえ」


⋯⋯なぜそんなことを知っているのか。

たしかに、住所変更の手続きはしたから、最寄り駅を知っているのはまだわかる。

でも、それだけで、住んでいるアパートの位置や詳しい情報まで筒抜けになるのだろうか。


「(もしかして、もしかする⋯⋯?)」


勘づいた途端、えも言われぬ恐怖が身体を駆け巡る。

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