ロマンスに心酔
「あそこの駅、美味しいごはん屋も揃ってるよねえ。よかったら今度一緒にどう?」
「あ、機会があれば、ぜひ⋯⋯」
「本当?うれしいなあ。さっそく今夜とかどうだろう?」
「あ、い、いや、今夜は、ちょっと⋯⋯」
「ああ、彼氏さんに先越されちゃってたかあ」
⋯⋯もはや仕事関係ないんだけど。
恐怖とともに嫌悪感も抱く。
いくら人事とはいえ、そんなことまで知ってる?
というか、職権乱用じゃない?
「ねえねえ、前橋くんとはどういうつながりなの?急だったよね?」
「⋯⋯こ、たえる必要、あり、ます、?」
「え〜、そんな恥ずかしがらないでさあ、せっかくの機会だし、教えてよ」
こっちが狼狽えてるのなんて関係なしに、前のめりになってプライベートに触れてくる。
このひと、こんなひとだったっけ!?
どうしたらいいんだろう、密室だし、とにかくこの部屋から出ないと、こわい⋯⋯
焦って冷や汗が出てきたし、顔も強ばっているだろう。
「ねえ?だんまりなんて、悲しいなあ〜」
どうしよう、どうしよう、ぐるぐる考えていると、そんな言葉とともに手がこちらに伸びてくる。
───いやだ、
反射的に身体を後ろに引いた、その瞬間。
───「失礼します」
ノックとともに、せんぱいの声が聞こえた。